バドの技術と戦術の変化に迫る[女子シングルス編]
 スポーツの技術や戦術などは、その時代のトップ選手のプレースタイルや道具の進化、論理的なトレーニングの普及などによってどんどん変わっていく。 ここでは女子シングルスをみてみよう。
[1990-2000年代] 1990年代は、スシ・スサンティ(インドネシア)、葉釗穎(中国)、カミラ・マーチン(デンマーク)。 2000年代は、張寧、謝杏芳、周蜜ら中国勢、ティラ・ラスムセン(デンマーク)らが活躍していた。
 アテネ五輪(2004年)では張寧が金メダル、周蜜が銅メダルを獲得するなど、中国が女子シングルスを牽引していた。
北京五輪(2008年)でも、張寧が再び金メダルを手にし、決勝ではライバルの謝杏芳と同国対決を演じた。当時は中国選手が表彰台を独占することも珍しくない 状況だった。
 このころの女子シングルスのプレースタイルは、世界トップの中国や韓国などを筆頭に高い技術を駆使する丁寧なバドミントンをしていた。
ラリー中のミスは少なく、ショットの精度も一つひとつが高い。ルールも今と違い、女子シングルスは11点のサービスポイント制だ。 サービス権があるときだけポイントが入るため、相手との駆け引きが重要で、メンタル勝負の要素が大きかった時代だ。
 当時の中国選手らは、気持ちの強さも際立って、ストローク戦になってもミスが少なく、ラリー力が高かったことが挙げられる。どの国も"中国の壁"を乗り越えのが大変だった。
その中でも 張寧は五輪連覇や世界選手権優勝など数多くのタイトルを獲得しているが、プレースタイルはオールラウンダーで、高身長を生かし、正確な配球を武器とした。
 他の国では、92バルセロナ五輪金メダルのスシ・スサンティ(インドネシア)、軽快なフットワークや鮮やかなラケットワークで中国・韓国選手に対応して、結果を残した。
 2000年代後半、ティラ・ラスムセン(デンマーク)がヨーロッパ選手特徴のパワーを生かした攻撃でポイントを奪う選手だった。中国勢が活躍する中で、08年全英OPを制覇したり、 スーパーシリーズ(現ワールドツアー)で何度か優勝を飾るなど、男子選手のようにパワーで押し切って勝っていた。
[2000年代後半] 21点ラリーポイントのルール改正が女子シングルスのプレースタイルが変わるきっかけとなった。 最初は新ルールに対してみんなが手探りの状態だったため、元々地力のあった中国選手が結果を残していたが、ラリーポイント制に慣れてくると、 少しずつパワー系の選手が活躍するようになってきた。
 これは、駆け引きが重要だったサービスポイント制に比べて、ラリーポイント制は勢いで勝ちやすくなったことがある。パワー系の選手が、連続ポイントで引き離し、 そのまま押し切るといった番狂わせも起こすことが増えた。
[2010年前後] 2012ロンドン五輪前に、世界を牽引していた張寧が引退。中国は王儀涵、王適嫻らが国際大会で活躍。 ロンドン五輪ころには、ラリー型選手だけではなく、パワーとテンポの速さで勝ち上がる女子選手も増えてきた。その後のリオ五輪で金メダルを獲ったキャロリーナ・マリン (スペイン)やインドのプサルラ・V・シンドゥ、ラチャノック・インタノン(タイ)らが力強い攻撃を軸に結果を残すようになってくる。
 ロンドン五輪で優勝したのは李雪芮、高い身長から攻撃を仕掛け、男子選手と同様なプレースタイルだった。ただ、単純にパワーだけで勝負するというよりも、 つなぎ球をうまく生かしてチャンスを生み出す戦術を取り入れていたのが印象的だ。
ちょうど男子選手の林丹(中国)が、豪快なスマッシュを軸とした攻撃から、つなぎ球を多用して好機をねらうラリー型に変えたころになる。 2012年前後、ラリー型で我慢強く戦う選手、パワーで押し切る選手、つなぎ球から好機をねらう選手などが混在していたが、その後に より結果を出すようになったのが、 パワーやスピードをを生かしてポイントを取る選手たちだ。
[2010年代後半] マリーンを筆頭に、インタノン、戴資穎(台湾)らがパワーとスピードを兼ね備え、現在の世界ランクでも 上位に入る選手が台頭してきた。特にマリーンは、強靭なフィジカルがプレーを支えているといわれ、強い筋力とパワー系の選手の弱点の"繊細なショットが苦手"という 意識もなく、ネット前のテクニックや打ち分けもうまいのが特徴だ。
 2016リオ五輪では、マリーンが金メダル、シンドゥが銀メダル。東京五輪までの5年間は、プレースタイルに大きな変化はなく、パワー、 スピード、スタミナ、テクニックが高いのはもちろん、全体的に総合力(全体のバランス)が上がってきたといえる。
 ワールドツアーでは戴資穎が結果を残し、中国の陳雨菲や何冰嬌が著しい成長を遂げている。
[日本選手は] 2005年に朴柱奉(現日本代表監督)が来日したときから大きく変化している。
プレースタイルでいえば、従来ストローク戦を得意とする中国や韓国に近い選手が多かったが、国際大会ではなかなか優勝できなかった。自分の試合の映像を 見て、勝てる方策を研究する、相手選手の分析や対策を続ける。勝ちたいという気持ちの上に、1点のために、1勝のために考えて、 研究することが大事だ。
 パワー系の選手も多い中で、山口茜、奥原希望が世界ランクで上位に入り、世界一も経験しているのは総合力の高さと、それぞれの特徴 を生かした戦い方が通用しているからだろう。
 スピードのある山口選手は、動き・ショットの両方のスピードで相手の選手に次の球の返球を予測する時間を与えないほど速いといわれる。 奥原選手は、最後まで粘りきれるフィジカルの強さと、フットワークの速さが持ち味だ。海外選手に比べてパワーがあるわけてはないが、多彩なショットを打ちこなし、 打っても打っても決まらない相手を根負けさせることでポイントにつなげていく。ファイナルゲームもスタミナ切れしない奥原選手とは決して戦いたくないことだろう。

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