バドの技術と戦術の変化に迫る[男子シングルス編-後編-]
 スポーツの技術や戦術などは、その時代のトップ選手のプレースタイルや道具の進化、論理的なトレーニングの普及などによってどんどん変わっていく。 今回も、前回に引き続き 男子シングルス編Q&A。
現在の国際大会では、攻撃タイプの選手が勝つのは難しくなっいてるのか
 近年の男子シングルスのプレースタイルは、かつての攻撃重視から相手のショットをレシーブやロブなどでコントロールしていくスタイルに変わっている。
強いスマッシュは大きな武器になるが、1試合や大会を通しての戦い方を考えると、スマッシュ力があるからといって安定的に勝てるわけではない。 ガンガン強打を打ち込む選手よりも、きちっとラリーを組み立てられるバランス型の選手の方が勝ちやすくなっているのが事実。
 ラリー型の得意な選手が多くなってきたことや、ラケット、シューズなど道具の性能が進化したことで、1回のラリー数が以前より長くなっているのも 体力の消費が大きいスマッシュが軸の選手にとっては、試合後半がキツくなったり、勝ち上がっていく試合数によって、最後まで攻めきれるかどうかが問題になる。
ただ、スピード勝負を仕掛けてくる、攻撃タイプの選手が巻き返す可能性もあるので、再び攻撃タイプの選手が活躍するのも期待したいモノ!!
アジア選手が活躍する中で、デンマーク選手が好成績を残しているのは・・・
 デンマークは伝統の強さを誇るヨーロッパ王者だが、男子シングルスの選手は、フィジカルの強さを生かして戦える選手が多いことと、精神力も他国より強い、 ことなどが上げられる。
高身長の選手が、高い打点から強いスマッシュを打ち込めることや、長いリーチで安定したレシーブ力があるなど、体格がアドバンテージとなっているといえよう。
ビクター・アクセルセンは190p超、アンダース・アントンセンは183p、ラスムス・ゲンケも185p。
 日本選手が他国の高身長選手と対戦した場合、序盤はパワーで押し負けることがあっても、終盤は日本選手のねばり強さに相手が失速することが多い。 デンマーク選手は、他国とは違うフィジカルを生かしたラリー力の強さがあるからだと思われる。それを支えるのは、最後まで戦い抜くメンタルの強さがあるからだろう。 伝統国としての誇りや自信といったものがプレーを支えているのだろう。
左利き選手の特徴は、プレーにどう有利に働いている?
 ご存じの通り、ほとんどの選手が右利きだ。多いとはいえないが世界のトップでも左利きで活躍している選手もいる。世界選手権やオリンピックで金メダルを獲得した 林丹が有名だ。現役選手では、桃田賢斗も左利き選手でランキング上位だ。
 一般的には、相手(右利きの選手)の予測とは違う球筋やコースが打てることが上げられる。普段の練習で左利きの戦死湯が少ないため、右利きの選手同士で打ち合うのが 当たり前で、右利きの人が打つ球筋や返球コースが自然と頭にインプットされている。
試合で、日頃の球筋やパターンが微妙に違うため、予測が難しくなる。左利きに慣れるまで時間を要するし、いざというときに頭の中でうまく切り替えないと 対応できずに負けることも多い。 予測は、経験の積み重ねで成り立つので、スポーツでも経験が少なければ予測は難しく、試合では当然、迷いや判断の遅れを招く。
 例えば、右利きの選手がフォア奥からストレートにスマッシュを打った場合、相手が右利きであれば、バックハンドで対応するので、返球コースはある程度読める。
しかし、左利きではフォアハンドで対応できるので、レシーブの球筋や軌道は変わる。カウンターがくるかもしれないし、チャンスが一転してピンチに変わることもある。
 5種目のうち、シングルスが特に左利きが有利なようだ。特にクロス系のショットは有効打になりやすく、左利きのバック前からの クロスロブは、右利きの相手だと反応を遅らせることができるショットになる。
 日本のエースである桃田も、バックハンドからのクロスロブを得意としており、左利きの長所を戦術に生かして戦っているのが分かる。
以前に比べて選手寿命は延びている?
 1990年代から2010年ぐらいまで積極的に攻撃するスタイルだったが、その後は、つなぎ球を使ってラリーを継続する戦い方が浸透し、プレースタイルが 「動」から「静」へと変化したことにより、トップ選手の選手寿命は長くなっている。スマッシュで「1点を取る」プレーよりも、「1点を与えない」プレースタイルの 選手が増えたことが要因といえる。
 年齢を重ねと、肉体的にも瞬発力などは衰えるが、持久力は練習次第で低下はそれほどではない。スピード戦では分が悪くなるベテラン選手も、経験を生かしたラリー戦なら 勝てるようになったことで、現役を続ける選手が増えたのではないか。
 現在の世界ランキングは、新型コロナによる処置として、本来は入らない19年のポイントが残っている。コロナ前に活躍していたベテラン選手がランク上位をキープしているが、 通常ルールに戻されると大きく順位が入れ替わる可能性があるので、その時点でベテラン選手がどういう判断するかによっては、トップ選手の選手層も変わることが 考えられる。
指導者がトップ選手のプレースタイルをかえることがあるか
 選手には、その人が目指すプレーイメージがある。トップ選手ともなれば、10年超の競技歴もあるので、ある程度プレースタイルも完成されている。 自分の試合映像などで、勝つために何が必要か、少しずつスタイルを変えることはあっても、指導者がその過程で大きく打ち方やスタイルを変えることはほとんどない。
 ただ、世界で勝つためには時代に合わせたプレースタイルに寄せていくことが必要だ。そういったときには「こうした方が良いかもしれない」と、推奨することはあるが、 選手に強制することはない。決めるのはあくまでも選手自身だとのこと。

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