強さの秘密 デンマークのバドミントン最新事情
2024年8月にデンマーク・コペンハーゲンで開催された世界選手権。地元の期待を背負ったディフェンディング・チャンピオンの
ビクター・アクセルセンが準々決勝で敗れる波乱があったが、男子単のアンダース・アントンセンの奮闘、男子複のキム・アストルップ/
アンダース・ラスセンが決勝進出など、地元の観客を盛り上げた。
同国通算68個目のメダルを獲得し、中国、インドネシアに次ぐ世界3位である。
欧州の強豪国として存在感を発揮するデンマークの強さの秘密を探ってみよう。
●デンマークのバドミントンを支える要素
デンマーク人口はおよそ600万人だが、デンマークのバドミントンを支える要素の一つは、競技としての長い歴史。
世界でも早い段階、1920~30年代には国がバドミントンを競技として取り入れようとしており、現在のバドミントン協会の前身となる組合も存在していた。
現在のバドミントン協会の設立は1930年。その歴史の長さもあり、現在は国内の各地域にクラブチームが存在している。(2022年当時700超)
子ども達だけではなく、社会人になっても家の近所にあるローカルクラブでバドミントンを始めることができる。
人々はバドミントンを身近に感じることができ、競技としての認知度も高いことで競技人口を保っている。
次の要素は、デンマークの気候。夏の一定期間を除き、1年の多くは雨が降り、冬はとても寒くなる。ただ、雪が積もったり、池が凍り付くほどではない。
このような気候環境の中なので、体育館やアリーナといったインドアホールが国内に充実していて、環境が整っている。
さらに、エリートプログラムの存在も大きな要素だ。15~20年前からの「タレント育成プログラム」の確立によって、世界トップレベルの選手育成が可能となり、
安定したレベルの保持、デンマーク代表として活躍できる選手の輩出が増えてきた。
●タレント育成プログラム
デンマークの文化では、押さない頃はスポーツは楽しむもの、と捉えられており、ナショナルチームのベースとなる「タレント育成プログラム」への
参加者選びは、早くても13~14歳。国内6~7か所のタレントセンターがあり、自分の所属しているクラブチームの練習日に加えて、週1、2回練習する。
U15から正式なユースナショナルチームが存在する。18~20歳では国内2か所のタレントセンターでのトレーニングへと進んでいく。
トップ水準と認められた選手は、ナショナルエリートセンターで、常に25~30人のトップ選手が週8~10回のトレーニングに励んでいる。
施設内には、ナショナルチームのコーチ、専属の理学療法士、栄養士、医師が従事している。
このプログラムの素晴らしい点は、ナショナルチームの選手を1か所に集めて、レベルの高い練習環境を、選手たちに365日提供できていること。
バドミントンの練習には羽根を打ち合う相手がいることが大切で、同じ場所で一緒に練習できる環境作りに重点が置かれている。
●他の国々との違い
ナショナルチームにおける選手育成のステップが明白で、年齢ごとに育成プログラムの練習会場が合宿(キャンプ)という形ではなく、常に存在しているということが、
他の多くの国々との違いだ。一方、ナショナルチームに所属する選手たちは、バドミントンでどように生計を立てているのだろうか。
日本では、社会人のプレーヤーが所属する実業団チームがあるが、デンマークでは、選手の生活費をサポートするまでには至っていないようだ。
協会から選手への資金援助としては、練習環境以外には 交通費、移動費の一部負担にとどまっているのが現状だ。
そのため、ナショナルチームの選手は、国内外のクラブチームと契約を結び、クラブチーム間のリーグ戦をこなすことで収入を得たり、
着用するユニフォームやスポンサーに関しては自由に選ぶ権利が与えられている(オリンピック等を除く)ので、そうしたスポンサーシップにより収入を得ている。
また、デンマーク協会では、選手が得た賞金から運営費等を得ることはなく、100%が選手個人のものとして扱える。
デンマークには60ものスポーツ協会があり、その中でもバドミントン協会は他の協会からも一目置かれる存在で、中でもエリート育成プログラムは、
あらゆる国内スポーツ協会関係者の手本となっているという。
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